介護の仕事は「人の役に立てるやりがいのある仕事」として注目される一方で、「きつい」「つらい」と感じる人も少なくありません。
また、物価高(インフレ)と賃金上昇が注目されている中で、介護職は給与が低いと感じている人も多いのではないでしょうか。
実際に現場では、体力的な負担や精神的なストレス、人間関係の悩みなど、さまざまな課題に直面することがあります。
この記事では、介護職がなぜ「きつい」と言われるのか、その具体的な理由と背景を丁寧に解説しながら、心身を守るための実践的なポイントを紹介していきます。
つらさを感じている人が少しでも前向きに働けるように、そしてこれから介護の仕事を目指す人が「リアルな現場」を知って納得のいく選択ができるように、現場の声と具体的な対策をまとめました。
あなたの疑問や不安に寄り添いながら、介護職の本当の姿に迫ります。
介護の仕事がきつい理由
体力的な負担とその影響
介護職は身体介助が多く、腰痛や肩こり、全身の疲労がつきものです。
移乗や入浴介助、排泄介助など、体に負担のかかる動作が多いため、無理を重ねると慢性的な痛みにつながることもあります。
さらに、1日を通して立ちっぱなしや中腰の姿勢が多く、身体にかかる負荷は想像以上です。
人手不足の施設
人手不足の現場となると尚更です。
ひとりあたりの作業量が多く、休憩が取りづらいことがあります。
人員の配置によっては有給休暇が取りにくい職場もあるでしょう。
また、適切な介助方法や補助具の使用ができていない現場では、事故やけがにつながるリスクも高くなります。
季節や時間帯によっても負担は変化し、たとえば夏場の入浴介助や冬場の早朝出勤など、体力的にも厳しい状況が続きやすいのが特徴です。
こうした積み重ねが蓄積されることで、腰痛などの慢性疾患や体調不良につながりやすくなります。
精神的ストレスの原因
認知症の方への対応や、利用者・家族とのコミュニケーションがうまくいかない場面が続くと、精神的に追い込まれることも。
感情労働と呼ばれるように、笑顔を保ちつつストレスを抱え込んでしまうケースが少なくありません。
また、感情のコントロールが難しい利用者への対応、突然のトラブルやクレーム、理不尽な要求にさらされることもあり、精神的な疲弊を引き起こす原因になります。
特に新人職員は、経験が少ない分プレッシャーを感じやすく、自信を失いやすい傾向があります。
加えて、「ありがとう」と言われる場面が少なかったり、成果が目に見えにくかったりすることもあります。
そのため、モチベーションの維持が難しくなることもあります。
孤立感を感じやすい職場環境では、ストレスの蓄積から離職につながるリスクも高まります。
介護職特有の人間関係の悩み
介護現場は少人数のチームで動くため、人間関係が濃密です。
毎日の業務を複数の職種と連携して行う必要があるため、互いのコミュニケーションや信頼関係がとても重要になります。
しかし、日々の忙しさや感情の行き違い、経験年数の差などが原因で、トラブルや摩擦が生じることも少なくありません。
特に上司との関係性や職場の雰囲気が悪いと、適切な相談ができず、指示や支援を受けにくくなり、孤立を感じる職員もいます。
また、同僚との価値観の違いや仕事に対する温度差、協力が得られないことへの不満などが積もることで、ストレスが蓄積しやすくなります。
さらに、利用者やその家族との関係性も大きなストレス要因になる場合があります。
最近ではカスタマーハラスメント(カスハラ)として職場が対応することが求められていますが、実際に現場で理不尽なクレームや対応の難しいケースに直面することもあり、感情を押し殺して対応せざるを得ない場面が続くと、心身ともに疲弊してしまいます。
このような人間関係の悩みを改善するためには、職場全体で風通しの良いコミュニケーションを意識すること、定期的なミーティングや相談の場を設けること、信頼できる相談先を持つことがとても大切です。
介護の仕事がきつい3つの理由
①介護施設での仕事内容
食事・排泄・入浴などの身体介助、レクリエーションの企画、記録作成、家族対応など、多岐にわたる業務があります。
さらに、これらの仕事は一人ひとりの利用者に合わせて臨機応変に対応する必要があるため、想像以上に集中力と柔軟性が求められます。
加えて、介護職は常に“時間との戦い”の中にあります。
例えば、食事や入浴の時間が決まっています。
すべての利用者に安全かつ丁寧に対応するためには、段取り力とスピードの両立が必要です。
しかも急な体調不良や予期せぬトラブルにも対応しなければならないため、心身ともに気を張り続けることになり、非常に疲労が蓄積しやすい仕事でもあります。
②夜勤やシフト制の影響
不規則な生活リズムは、体調不良や睡眠障害の原因になります。
日勤・夜勤・早番・遅番といったシフトが混在する勤務形態では、生活のリズムが整わず、自律神経の乱れや慢性的な疲労感につながることも。
特に夜勤は、日中に十分な睡眠をとることが難しく、睡眠の質も低下しがちです。
夜間はスタッフ数も限られるため、責任の重さや緊張感が高まり、精神的なプレッシャーも増します。
さらに、夜勤明けでもすぐに家庭の家事や育児に追われるケースもあり、体を十分に休めることができないまま次の勤務を迎えることも少なくありません。
③3K職場の実態
「きつい・汚い・危険」といわれる3Kの現場。
排泄処理や感染症対策など、衛生面に配慮しながらも高い清掃意識と忍耐力が求められます。時には、嘔吐物や血液、感染リスクのある汚物への対応を迫られることもあります。
また、入浴介助中の転倒リスクや、体重のある利用者を支えることでの腰への負担、感染症やノロウイルスが流行する時期の対応など、“危険”と向き合う場面も多く存在します。
これらはすべて、命を守るという意識を持って取り組まなければならず、大きな精神的プレッシャーにつながります。
こうした現場の実態を正しく理解し、適切なサポート体制や設備が整っているかを見極めることが、職場選びの際にはとても重要になります。
介護職がもたらす心身への影響
心身の健康を守るために知っておくべきこと
過労やストレスによる体調不良、うつ症状などを防ぐには、定期的な休息と自己ケアが重要です。
特に、無理をしてまで頑張りすぎると自分を追い詰める原因になります。こまめに水分を取る、意識的に休憩時間を確保する、プライベートでのリラックスタイムを大切にするなど、日常的な小さな工夫が心身の健康を守る鍵です。
また、勤務先のサポート体制も確認しておきましょう。
産業医や相談員がいるか、メンタルヘルス相談ができる仕組みがあるかなどを把握しておくことで、万一の時にも安心です。健康診断の活用や、社内外の研修への参加も、予防的なケアにつながります。
メンタルヘルスの具体的な対策
カウンセリングの活用や、職場内でのメンタルヘルス研修の受講、悩みを共有できる仲間づくりが効果的です。
自分ひとりで抱え込まず、相談できる相手や環境があるだけで、精神的な安定感が大きく変わります。
近年では、EAP(従業員支援プログラム)などの外部相談サービスを導入している施設もあり、専門家によるサポートを受けられるケースも増えています。
また、同僚同士の「話せる関係づくり」や「ありがとう」の言葉を交わす習慣など、職場全体での温かな雰囲気づくりも、メンタル面の安定に寄与します。
身体的負担を軽減する方法
介護用リフトや移乗補助具を積極的に使うこと、正しいボディメカニクスを学ぶこと、ストレッチや筋トレによる体づくりなどで、体への負担を軽くすることができます。
特に、腰を守る姿勢や動作を身につけることで、長期的な健康維持につながります。
また、施設によっては腰痛予防の講習会や研修が実施されているところもありますので、積極的に参加しましょう。
職場内で声を掛け合い、協力して業務を分担することも、過度な身体的負担を防ぐためには有効です。たとえ小さな工夫でも、積み重ねが健康を守る大きな力になります。
職場環境が与える影響
職場の人間関係とその解決策
介護現場ではチームワークが不可欠であり、その中心にあるのが人間関係です
。良好な関係性が築かれていると、仕事がスムーズに進み、利用者へのケアの質も高まります。
一方で、トラブルや誤解が生じやすいのも事実であり、日頃からの対話が非常に重要です。
そのためには、対話の機会を意識的に増やすことが有効です。
定例のミーティングだけでなく、休憩中のちょっとした会話や声かけ、感謝の言葉の共有など、小さなコミュニケーションの積み重ねが、信頼関係の構築につながります。
また、職場内に「困ったときに相談できる相手」がいるという安心感が、心理的な安定にも寄与します。
職員同士の立場や経験年数に関係なく意見を言いやすい雰囲気づくりや、第三者的な相談窓口の設置なども、対人トラブルの予防に効果的です。
環境改善のための実践例
現場によっては、職員のメンタルケアや職場満足度向上を目的とした取り組みが進められています。たとえば、職員同士で感謝のメッセージを交換する「ありがとうカード」制度を導入した施設では、雰囲気が柔らかくなり、ストレスが軽減したという声もあります。
また、働く時間に柔軟性を持たせることで、家庭やプライベートとの両立を支援する施設も増えています。希望休の取得をしやすくする制度や、シフトの組み方の見直し、時短勤務制度の整備などがその一例です。
さらに、リフレッシュルームの設置や、福利厚生としてのマッサージ・カウンセリング制度など、心と体の両面に配慮した工夫を導入している現場もあります。
こうした取り組みは、職員の定着率やモチベーション向上にもつながる重要なポイントです。
管理職や上司とのコミュニケーション
管理職や上司との良好な関係は、職場の働きやすさに大きく影響します。とはいえ、立場の違いから遠慮してしまい、本音を伝えられないという声も少なくありません。
だからこそ、双方向のコミュニケーションが大切です。上司の側も部下の話に耳を傾ける姿勢が求められますが、職員側も「伝える努力」をすることで、相互理解が深まりやすくなります。たとえば、「困っていること」「工夫していること」「もっとこうしたい」といった前向きな提案として話すことで、対話のきっかけになります。
月に一度の個人面談や業務報告時の雑談などを活用し、定期的に意見を交わせる機会を設けることも、心理的安全性を高める要素となります。
こうした積極的なコミュニケーションは、仕事への納得感や安心感を生み出し、より良い職場環境の形成へとつながっていきます。
介護職を続けるための対策
やめた方がいい?介護職に向いてる人
介護の仕事は、体力的にも精神的にもタフさが求められるため、誰にでも向いているとは言えません。
しかし、体力がある、誰かの役に立ちたいという気持ちが強い、気配りができる、共感力があるといった資質を持つ人にとっては、大きなやりがいを感じられる仕事です。
一方で、「感謝されたい」「見返りが欲しい」といった気持ちが先行すると、現場の厳しさや、感謝の言葉がなかなか得られない場面に直面したときにモチベーションが下がりやすくなります。
また、変化に柔軟に対応できない人、チームで動くのが苦手な人も、ストレスを感じやすいかもしれません。
ただし、向き不向きは経験を通じて変化することもあります。
「自分には向いていない」と思っていた人が、職場や利用者との関係性を深める中で、やりがいや喜びを感じ始めたというケースも少なくありません。
仕事の両立を図るためのポイント
家庭との両立を図るためには、まずは無理のない働き方を見つけることが大切です。
正社員だけでなく、パートや派遣、夜勤なしの常勤など、自分のライフスタイルに合わせた選択肢を検討しましょう。
また、シフトの希望をしっかり伝えることも重要です。
子育てや介護との両立を考えている場合は、面接時や入職後の早い段階で、自分の希望や制約をきちんと共有しておくことで、トラブルを防ぎ、安心して働くことができます。
最近では、ワークライフバランスを重視する施設も増えており、時短勤務制度やフレックス制度、有給休暇の取りやすさなど、職場選びの際に確認すべきポイントも多様化しています。
家庭と仕事のバランスをうまくとることが、長く働き続けるためのカギになります。
キャリアアップを目指す方法
介護職には、ステップアップできるキャリアパスが明確に用意されています。
たとえば、介護職員初任者研修から始まり、実務者研修、そして国家資格である介護福祉士、さらにケアマネジャー(介護支援専門員)やサービス提供責任者、施設管理者など、役職や資格に応じたキャリアアップが可能です。
スキルアップを目指すことで、仕事への自信がつき、業務の幅も広がります。
また、資格取得に関しては、職場での支援制度(受講料補助、試験対策研修など)が整っていることも多く、積極的に活用すれば、経済的な負担を軽減しながらスキルを伸ばせます。
将来にわたって長く介護の仕事を続けていくためには、自分の強みを活かせるポジションを見つけたり、専門性を深めたりすることがモチベーションの維持につながります。
現場の経験を積み重ねながら、次のステップを見据えた学びを続ける姿勢が大切です。
介護の仕事の魅力とメリット
やりがいを感じる瞬間とは?
介護の仕事では、利用者の笑顔や「ありがとう」の一言に触れたとき、自分の行動が誰かの生活に直結して役立っている実感を得られます。たとえば、排泄介助や入浴介助など、一見大変に思える業務であっても、利用者の「気持ちよかった」「助かった」といった言葉に触れることで、大きな達成感や誇りを感じられる瞬間があります。
また、長期的に関わる中で、少しずつ心を開いてくれる利用者や、信頼関係が築かれていく過程もやりがいにつながります。人の成長や回復、日常生活の自立を支援するプロセスを間近で見られることは、ほかの仕事ではなかなか得られない感動があります。こうした経験は、介護職員自身の成長にもつながっていきます。
求人情報と給料事情の現実
介護業界の給与水準は、全体的には他業種と比べて高くないと言われることもありますが、近年は処遇改善加算や特定処遇改善加算など、政府の支援によって収入面の改善が進んでいます。
また、経験年数や資格の有無、役職によっても給与水準は大きく異なります。
たとえば、無資格・未経験のスタートであっても、初任者研修・実務者研修・介護福祉士といった資格を取得していくことで、手当が加算される制度を設けている施設も多くあります。
また、夜勤手当や住宅手当など、各種手当を充実させている事業所も増えてきています。
施設や事業所によって給与・待遇に差があるため、求人を選ぶ際には「基本給」だけでなく、「手当」「福利厚生」「研修制度」などの詳細も確認しておくことが重要です。収入だけでなく、自分の生活に合った働き方や支援体制が整っている職場を見極めることが、長く安心して働けるカギになります。
未経験からのスタートを考える
介護職は未経験から始められる数少ない専門職です。特に、初任者研修や実務者研修といった基本的な資格は、働きながら取得できるようサポートしてくれる施設が多く存在します。
そのため、「これから新しい仕事に挑戦したい」「誰かの役に立つ仕事がしたい」と考える方にとって、非常に入りやすい業界といえます。
また、未経験者に対しては、OJT(現場での実地指導)やフォローアップ研修が充実している職場も増えています。最初は不安があっても、丁寧な指導や仲間の支えによって、少しずつ自信をつけながら成長していける環境が整っています。
さらに、介護職は年齢や性別に関係なくチャレンジできる点も魅力です。
異業種からの転職や、子育てが一段落してからの再就職など、人生のどのタイミングからでも始めやすく、長く続けやすい仕事として多くの人に選ばれています。
まとめ
介護の仕事は確かに体力的・精神的な負担が大きく、「きつい」と感じる人が多いのも事実です。
しかし、その背景には人手不足や職場環境、制度面の課題など、改善できる要素も多く含まれています。
正しい知識を持ち、適切なサポート体制や工夫を取り入れることで、心身の負担を軽減しながら長く働き続けることも十分に可能です。
「きつい理由」を正しく理解し、「向いている人」「続けるための工夫」「やりがい」などにも目を向ければ、介護職の本来の魅力を再発見できるはずです。
🔍 重要ポイントまとめ
- 体力的負担の原因:移乗・入浴・排泄介助などで腰痛や疲労が蓄積しやすい
- 精神的ストレスの要因:認知症対応、クレーム、感謝されにくさからくる孤独感
- 人間関係の悩み:上司や同僚、利用者・家族との関係がストレスの引き金になることも
- 環境整備の重要性:職場の風通しや相談体制の有無が働きやすさに大きく影響する
- 「向いている人」とは?:体力があり、共感力・気配り・チーム意識がある人
- 続けるための工夫:働き方の選択肢(パート・時短・夜勤なし)や職場選びの工夫
- やりがいを感じる瞬間:利用者の笑顔や「ありがとう」、日常の変化を支える実感
- キャリアアップも可能:資格取得や管理職への道が明確にある専門職